ビジネスをデザインでひらく 公益財団法人大阪産業局・デザイン活用支援 oidc(Osaka Innovative Design Connect)
「船舶ブルー」が大ヒット!音響拡声装置メーカーのクラウドファンディング挑戦
デザイン相談「D-challenge」の活用企業「株式会社ノボル電機」の取り組み
「船舶ブルー」が大ヒット!
音響拡声装置メーカーのクラファン挑戦
デザイン相談「D-challenge」の活用企業
「株式会社ノボル電機」の取り組み
今回は大阪の拡声器メーカーが作る、必ずしも音が良いとは言えないスピーカーオーディオをマーケティングしていく物語。2023年末にデザイン相談「D-challenge」に持ち込まれた相談からスタートした商品マーケティングは、翌年の夏、クラウドファンディングで大成功という成果を収めました。
株式会社ノボル電機の代表取締役社長、猪奥元基氏と、マーケティング・デザインに携わった大阪産業局デザイン活用支援oidcの小山啓一(こやま けいいち)氏との対談からその成功を追いかけます。
拡声器メーカーとしての挑戦と誇り
小山:まず簡単に、御社の紹介をお願いします。
猪奥氏:はい、弊社は戦後の1945年に私の祖父が大阪市内で創業した拡声音響装置のメーカーです。わかりやすくいうと「メガホン」の会社ですね。
ハンド型で雑踏警備や学校などでも使われるものを中心に、公共施設や船舶などの拡声装置を作り続けて79年になります。
父の代を経て2018年に私が代表を譲り受け、3代目としてやらせてもらっています。
小山:このビジネスの難しさや面白さ「ここはちょっと苦労しました」みたいなところがあれば教えてください。
猪奥氏:そうですね、拡声音響装置の市場にはパナソニックさんやJVCケンウッドさん、TOAさんという東証一部上場会社が3社もいるんです。
弊社はたった60名の、それこそ町工場と言われるような規模感で、スピーカーからアンプやマイクまで作っていますので、同じように「音響装置のセットメーカーです」と言わなければならない。
機能面で言えば部品であることに間違いありませんし、仕様を出している以上は品質的な保証もしないといけないので、厳しい状況ですが多能工化を進めて品質保持に取り組んでいます。
小山:なるほど、その中で商品に対するお客様の評価はいかがでしょう?
猪奥氏:特定市場に特化した特徴商品を出すことが、先代である父の戦略でしたので、この分野ではナンバーワンという商品が非常に多いです。例えば「メガホン」「オルゴールアンプ」「船舶用スピーカー」の3つは特に自信を持っている商品です。
量産品という括りになるんですが、「防水型のメガホン」は弊社が最初に手掛けたものです。
阪神・淡路大震災の際に現場からの要望を受けて開発した商品ですが、今では大阪消防局さんにかなりご愛顧いただいております。
ちなみに、弊社のメガホンが2025年の大阪・関西万博でも使われることになり、本当に良かったと思っています。
小山:船舶用スピーカーに特化していったのはなぜですか?
猪奥氏:特に設備需要は大手企業の主戦場になるので、大手があまり手がけていない海上需要として船舶向けスピーカーに特化してやってきました。
塩害や錆に強いスピーカーとしてナンバーワンをめざし、さらにラインアップの幅を広げることで、日本の造船業の発展とともに会社を伸ばしてきたという自負があります。
小山:今回の商品開発の中で、御社が長年作り続けてきた船舶向け商品の色は、マーケティング上とても重要なものになりました。「船舶ブルー」と名づけることで、海の上という「エモさ」を端的に言語化できたと思っています。海の青ではなく船舶の青の方がイメージする世界が具体的でかつ、物語りとしての奥行きが深い。
小山:この色についての由来をお聞かせ頂けますか?
猪奥氏:私も慣れ親しんできた灰青緑という色は、商船に装備される機器の塗装色として、ずっと昔から指定されてきた色です。
具体的には、昭和34年(1959年)に、日本舶用工業会が日本舶用工業会標準(SM標準)として船用機器の塗装色を定めたと書かれています。その後2007年には、当時6色あった船用機器の塗装色が、マンセル値で7.5BG7/2に統一されました。標準化の動きは、舶用機器を作る企業の経営基盤の強化や生産性の合理化などから行われたようです。
小山:ということは船舶用の機材というのは、この色に仕様が決められていて、スピーカー以外でも他にこの色に塗られているものがあるんですね?
猪奥氏:はい、多いですね。操作盤や電気機器の箱、ジャンクションボックス(船用接続箱)みたいなものとか。あと、それらにつく部品が大体この色ですね。
なぜこの色が選ばれたかという理由は、配電盤などが典型的ですが、計器やつまみ類は黒色のパーツが使われることが多いので、視認性や正確性を高めるために、盤面はコントラストがあって目にも優しい灰青緑が選ばれたと聞いています。
小山:「船舶ブルー」というのは、ノボル電機さんが作られたものではなくて、全ての船舶機器メーカーにとって、重要な色だというのもおもしろいですね。
猪奥氏:そうです。なので、今回「船舶ブルー」を使った商品をクラウドファンディングに出させてもらいましたが、船舶業界の人にとっては当たり前すぎて、少し驚かれたかもしれません(笑)
拡声器の水平展開、BtoCへの挑戦
小山:ずっと業務用を続けてこられて、BtoC向けのオーディオを作ろうと思われたきっかけは何ですか?
猪奥氏:どの事業もそうかもしれませんが、人口が減るということは、我が社にとっても需要が減るということです。弊社のお客様は、官公需が半分以上あるというのを肌感覚として持っていました。
官公需要は人口が減ると防災の予算も減って、リプレース(交換)がなかなか起きない事実もあります。
猪奥氏:次の一手をどうするかというのを社長就任以降、ずっと考えていました。
その中で、弊社80年の歴史を振り返ると、拡声器をいろんな市場に愚直に売り歩いている会社だということが分かってきました。
『安心される専門メーカー』という弊社の経営理念に立ち戻って考えた結果、拡声器を各市場に水平展開することは、理にかなったことだと思ったんです。
小山:なるほど、「自分たちはこういう会社だ」ということを見直したんですね。
猪奥氏:そうです。それで、まだ我々がアプローチしていない市場で、拡声器で貢献できるところはないかと考えたときに、ずっと業務用一筋でBtoCはやってこなかったなと思ったのが半分。残りの半分は、大阪産業局さんの支援事業である「大阪商品計画」との出会いです。
自社の独力、自分のアイディアだけで勝負するのではなくて、専門家の伴走支援がもらえる事業がある。この2つがちょうどタイミングが合って、申請をさせていただきました。
そのときは正直「大阪商品計画」が落ちたら、BtoCには参入しないと決めていました。
小山:大阪産業局も貢献していたということですね!?
猪奥氏:大阪産業局さんは、弊社のBtoC事業の生みの親ですね!あれがなかったら違うことをしていたと思います。
小山:初めてのBtoC商品づくりで試行錯誤されたと思うんですけど、最初に手がけられたのはどのようなものでしたか?
猪奥氏:無電源のスピーカーというのをまず作らせてもらいました。「大阪商品計画」が単年度事業なので、1年以内にできるものという縛りの中でひねり出したのが、弊社にある消火設備と連動して使う避難誘導用の防災スピーカーの意匠をそのまま使って、スマートフォン用の無電源スピーカーに改造しようと考えたんです。
当時はまだ、グランピングとかアウトドアが世間で話題になっていて、ちょうどスマートフォン用の無電源スピーカーという新しい商品ジャンルができていた頃です。でも、音響に詳しい人が作っていないようだったので、弊社の拡声器のノウハウを使えば一番大きな音が出せると思いました。
これでクラウドファンディングに初めての挑戦した結果、150万円のご支援をいただけて、拡声器でこんなに買ってくれるんだっていう驚きが大きかったです。目標としていた100万超えを達成できたのと、量販店様との口座を開いていただけたのがクラウドファンディングの成果ですね。
大阪府が推奨するBtoC商品の「大阪製ブランド」にも選んでいただきました。
小山:「大阪商品計画」「大阪製ブランド」の取り組みの中で、バイヤーさんに見てもらえて、量販店から口座を作ってもいいという返事がもらえたんですね?
猪奥氏:「大阪商品計画」は当時、成果発表の場として東京インターナショナルギフトショーへの出展がありましたので、そこで販路やお客様と出会うことができました。
「結構評判いいですよ、面白いね!」という反応でした。
小山:面白いという要素はすごく大事ですよね。
私は、「面白いね」を作れるかどうかが商品の鍵になってくると思っていて、特に面白さ自体に反応する人の心理というものは本当に侮れないものがあると感じています。
「面白いスピーカー」への気づきと第2弾の成功
小山:BtoCへの挑戦で多くのことを学び、得たものも多かったようですが、続けていくことは難しいですよね?
猪奥氏:成功したと言う思いもあり、意気揚々とスタートしました。
初めは、最大音量の無電源スピーカーという打ち出しだったんですけど、どうやらユーザーはそのことよりも、面白い音がするスピーカーに興味があるということに気づけたことで第2弾の「コンパクトオーディオ」に繋がっていきます。
「大阪商品計画」で学んだことを再現していくことで、2023年2月にクラウドファンディングを行い、350万円の成果を上げることができました。
これにより、コンパクトオーディオが一定の認知を得られましたので、すぐに家電量販店様での販売が決まり、第1弾に比べるとかなりスムーズにリリースすることができました。
小山:なるほど、反響が良かったということですね。
猪奥氏:ただ、「コンパクトオーディオ」の打ち出しはノスタルジックなイメージ戦略でした。音響に全振りできずに、見た目がミニマリストに合うガジェットみたいなインテリアアイテムとしての部分を残していました。
小山:気掛かりなこともあったということですね?
猪奥氏:特に弊社のブランドコンセプトが「不器用なガジェット」というのを掲げていましたので、1945年創業の拡声器メーカーが作るオーディオという切り口にも関わらず、「おしゃれなインテリア」というように、ちょっとぶれていた部分もあったかなと今では思います。
「業務用がかわいい」船舶ブルーへの抵抗と受け入れ
猪奥氏:正直に言うと、この製品で大阪製ブランドを取りたかったんです。大阪製ブランドでは、無電源のスピーカーで大変手厚い支援をいただいていたので、こちらでも取れるだろうと思っていました。
クラファンの支援金額も350万に上がって、満を持した製品だから絶対いけると思っていたら、そんなに簡単に取れるようなものじゃなかったという…。
2年連続だからしょうがないなと思いながらも、担当の方から「何が足りなかったのかを助言する仕組みがありますよ」というご案内いただいて、正直、ある一定の成功はできたと思っているんですが、今後も成長するために、自分や自社に何が足りないのかをせっかく教えてくれるというので、「ぜひお願いします」というのがデザイン相談を受けたきっかけですね。
小山:初めて相談に来られたときに、面白いものを作ってらっしゃるなとは思っていたんですよ。
猪奥氏:いやいやボロクソだったじゃないですか。あの日は泣いて眠れませんでしたよ。(笑)
小山:すみません(笑)
猪奥氏:小山さんはデザインの専門家でありますし、今までの経験が僕とは全然違うものをお持ちなので、最初は何を言っておられるのか、さっぱり理解ができなかった部分がありました。一応、おっしゃっている日本語はわかるんですけどね。
小山:あちゃー、そうだったんですね。(笑)
猪奥氏:はい。私が初回のご相談させてもらったのが2023年の12月だったと記憶してますが、結局ここまで来るのに6ヶ月かかりましたから。
デザイン相談って、こちらのタイミングで申し込みできるので、それが僕には非常にありがたかったですけどね。
何らかのスキームに乗っかって、来週までこれしなさい、来月までにこれしなさいだったら、私の腹落ちがないままに何となく期限がきて、成果物として「レポート一枚作ったけど、どうすんねんっ!」というような状態になってたんじゃないかなって。
小山:なるほど、そうですね。
小山:僕のコメントに対して納得できずにそこで終わってしまう方もおられますし、ペースを守りながら自分ができることをしっかりやっていこうという経営者さんもおられます。その中でも、猪奥社長の「まずはやってみる」そのうえで納得できるかを、時間をかけて検討する姿勢には頭が下がるものがありました。
僕が第二弾の商品を見て気になったのは黒やシルバーの「色」ですね。ノボル電機さんが船舶や公共のものを作ってらっしゃるのに、Hi-Fiオーディオのイメージを借りてきて、それっぽい(顧客との)コミュニケーションをしているように見えたんです。
それは作り手側の「見せたいことを見せている」ストーリーであって、世の中が見たいものを見せていないんです。
僕は、ノボル電機さんが拡声器メーカーとしての最高のストーリーを胸を張って見せる。それが見たいっていうのがあったんですよね。
猪奥氏:そこで「船舶用スピーカーと同じ色を塗って」という話になったんですけど…。
小山:抵抗も凄かったですよね?
猪奥氏:だって、時間があったら工場の製造ラインを見て欲しいんですけど、普通にこの色の商品が流れてますからね。
小山:ハッハッハ、なるほどなるほど。(笑)
猪奥氏:やっぱり「業務用=実用性を突き詰めた商品」だからデザインの要素ではないっていう思い込みがまず私の中にあって、「まさかこれ?」でしたし、腹落ちするまでに非常に時間がかかりましたね。
ただ実は、裏側で私もいろんな人に相談している中で、沖縄でカフェをやっている大学の友達が、海に近いっていうのもあるのか、船舶ブルーに対して、「めっちゃ格好ええやん!」という声が帰ってきて、少しずつ腹落ちが進んでいったっていう部分もありますね。
小山:ハハハ。元々、自分のところにある業務用を格好よくしたいと思っているのに、元に戻せと言われたら…。そこで耳を塞いでしまう経営者さんも多いですから、そのお友達に感謝ですよ。
猪奥氏:特にアンプは塗りたくないというのを無理矢理塗らされましたので。
小山:そうですよね、アンプも塗ってください!って言ったら「いやぁ、それは… 」って言ってましたね。
猪奥氏:でも、塗りましたよ(笑)これ本当に直球で言ってしまうと単なる色変えなんですよね。
小山:そうです。でも、御社でずっと製造ラインに流れてきた「船舶ブルー」でなければ意味がないんです。
世の中にないもの出していくことがイノベーションという定義になりますが、中小企業さんが全く新しいことにチャレンジするための設備って、とてもじゃないけど持てないと思うんですよね。
今ある自社の商品をあるフィルターをかけてストーリーや文化、世界観に変えていく。その中で、色だけで素敵なストーリーを描けると感じていただけたのがすごく嬉しいです。
クラウドファンディングの成功と色がもたらした変化
猪奥氏:これにはもうびっくりしました。
実は、グリーンファンディングさんからも、基本的に色替えのプロダクトはNGっていうことを言われていました。
そこをひっくり返すプレゼンから始まるんですけど、「これは単なる色変えじゃないんです、文化に基づいたブランドコンセプトに根差した色なんです」と説明して、「じゃあ一回やってみましょうか」というふうにご理解いただけたのも、小山さんと何度かやり取りする中で、自分が腹落ちできていたからこそ、粘って説明がちゃんとできた。それが、何か格好いいものを作るのがデザインだよねっていう以前の私の考えだったら、終わっていたと思うんです。
最終的に運営側の協力も取り付けられて、最初よりも船舶ブルーの方が、運営側の支援も手厚かったですね。
小山:実績としてはどうでしたか?
猪奥氏:最終的には、115名465万円まで伸ばしていただけたので、まさかまさかの前回から100万円超です。
第二弾のシルバーやブラックも今回のクラファンに出したんですが、実績でいったら、9対1を切る割合で船舶ブルーしか出ないんですよ。
当初、私の見込みでは黒6:シルバー2:船舶ブルー2ぐらいの割合で、そこまで期待していなかったんです。それが、ほぼ今回の実績って船舶ブルーの一択なんですよ!
運営さんからいただいたデータを見ても、確実に若い方の支援の比率が増しています。
うちの製造ラインで普段作ってるスピーカーとほぼ変わらないんで、製造部長とも「なんで?」って、「分からんもんですなー」って言ってるんですよ。
小山:え!そんなに自信なかったんですか?(笑)
猪奥氏:正直、最後まで懐疑的だったと思います。打ち出しとしての「業務用がかわいい」にも悩みました。
ブランドコンセプトの理解と「エモい」マーケティング
小山:「業務用が愛おしい」にしたいという話もされていて、紆余曲折もありましたが、結局、私が首を縦に降らなかったんで…すみません。
小山:猪奥さんは「かわいい」という言葉についてはどう感じていますか?
猪奥氏:元々「不器用なガジェット」という渋味のあるコンセプトで走っていましたので、軌道修正という意味では「かわいい」はちょっとと思っていて…。
「かわいい」っていうのは普段、女性がよく使っているのは聞いてますけど、一人の男性として「かわいい」っていう言葉はどうなんだろうという感じはありました。
小山:一般的には、そうですよね。
小山:第二弾では、50~60代の男性というのがターゲットだったと思うんですが、ノボル電機のストーリーを感じてくれるのは、多分30歳を中心とした若い世代なんじゃないかっていうことなんですね。
私は、マーケティングの中で「エモい」という感覚が大事だと思っています。そのエモさの象徴みたいな商品が今回の「船舶ブルー」です。
「業務用がかわいい」の「かわいい」は「船舶ブルー」との相性が最強です。
船の高いところで潮風を受けるノスタルジックな音質の業務用スピーカーを「かわいい」と思える支援者さんたちの感性、このストーリーの中で小さな命(かわいい)を感じ、そばに置きたいと思う心の豊かさ、繊細さこそがこの商品のペルソナのインサイトです。
猪奥氏:キーワードというか、キャッチコピーのひねり出し方って僕らは素人なので、やっぱり餅は餅屋じゃないですけど、小山さんはそのあたりの感性で全然違うものをお持ちだなと。
ここも腹落ちするまでは時間はかかったんですけど、実際走り始めたときにしっくりくる感じっていうんですかね、少なくとも2・3ヶ月ぐらい使い続けていて、今は全然違和感はないですね。
小山:逆に猪奥社長が「業務用がかわいい」に真剣に向き合ったことで、多くの人が動いたし、メディアも取り上げたんだと思います。
猪奥氏:今、お買い上げいただいた皆さんにリターンの送付が始まっていて、少しずつTwitter(現X)上でもコメントがついているんですが、まぁ、皆さん好き勝手に言ってくれてて、ぼろくそに評価してくれてます。
小山:ぼろくそに評価?ですか。
猪奥氏:いやもう「音質クソで最高!」とか、「絶対誰も真似できない」みたいな。
小山:ハハハハ・・・。
猪奥氏:「これ褒めてるか?」みたいなツッコミが多いですが、中には、郷愁を感じさせる音が学校やスキー場を思い出して「○○を聞いてるんだけど思わず泣いちゃった」みたいな、むちゃくちゃ嬉しいコメントももらったりしてますよ。
小山:最高!嬉しいですね。
猪奥氏:今までずっと仕様を守り、機能性を高めることで商売させてもらってきました。まだまだ全部抜けきったとは思えないですけど、感性的な価値という部分でお金をもらうことは、訴求していくことがとても難しいですが、改めてそれがブランドだとおっしゃっていただいて、なるほどなと思っています。
小山:今、商売をされている方たちを見ていて課題かなと思っていることは、お客さんを見れてないんですよ。
こういう傾向だからこういうものを買うだろうとか、これが便利だからこれを買うだろうみたいな話で終わってしまっている。
でも、思い出や旅情など、「ノスタルジック」な自分史を一人一人が持っていて、その中に共有する原風景を刺激することができたというか、震わせてくれたものが「船舶ブルー」だと思うんです。逆に高音質でないこと、ホーンの音、ノボル電機の音である必要があるんですよね。
猪奥氏:これは小山さんだから見えるんですけど、僕ら拡声器メーカーで創業80年って言っても、別に珍しくも何ともないんですよね。「船舶ブルー」もそうですが、うちにゴロゴロ転がってるものが御社のアイデンティティなんですよって言ってもらって、初めて気づく。いや、正直言われたときも気づかなかったんですけどね。
小山:ハハハハハ。
猪奥氏:さらに、3ヶ月かかってやっと腹落ちしてというところなので。
小山:その腹落ち感ですが、今回クラウドファンディングをやって、SNSとかで反応を直に聞いたときに、ドンって落ちたんじゃないですか?
猪奥氏:そうですね、落ちましたね。
小山:そういった、ぼろくそに、めちゃくちゃ褒められている、愛されている。これはやっぱり解像度が増していってると僕らは表現するんですけど、お客さんがすごく見えてくるじゃないですか。心の機微みたいなものが見えてくる。
猪奥氏:非常にありがたいですね。おかげで多分、何かを作るときの粒度がすごく細かくなってきていると感じます。本当にどこまでできるかはあるんですけど、その解像度をもっと上げていくことで、よりブランディングが強固になっていくのかなと思います。
小山:まさに、おっしゃる通りです。
猪奥氏:今回、この船舶ブルーができたっていうのは非常によかったですけど、今後これをどう伸ばしていくかが課題です。クラウドファンディングで500万円を超えられなかったのも私のブランドに対する解像度の低さに起因していると思いますし、ブランドって奥が深いなって改めて考えさせられたと、そういう気分です。
これからもよろしくお願いします。
小山:はい、是非、是非よろしくお願い致します。
本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。