ビジネスをデザインでひらく 公益財団法人大阪産業局・デザイン活用支援 oidc(Osaka Innovative Design Connect)
2025デザイン・オープン・カレッジ フォーラム
「大阪から世界へ!ライセンス活用で広がるビジネスチャンス」開催報告
開催日:2025年8月28日(木)
登壇者:北山 寛樹 氏(株式会社電子技販 代表取締役)
株式会社冨士精密 広報担当者
室谷 光一郎 氏(室谷総合法律事務所 代表弁護士)
本フォーラムは、8月28日(木)に大阪産業局で開催され、ライセンスビジネスの基本から、BtoB企業によるBtoCビジネス進出の苦労話や思わぬ効果、キャラクター活用の要点など、実践的な知見を共有しました。
第1部:ライセンスビジネスの基礎知識と活用事例
モデレーターの室谷氏より、ライセンスビジネスの概要が説明されました。ライセンスビジネスは「知的財産(IP)」を使用許諾し、使用料を支払うビジネス形態であり、キャラクターグッズやブランドとのコラボレーションなどが含まれます。ライセンサー(IP提供者)とライセンシー(IP利用者)がWin-Winの関係を築くことで市場が拡大します。
ライセンサー側のメリットとしては、低コスト・低リスクでのビジネス拡大や、ブランドの認知度向上、販路の拡張などが挙げられます。
ライセンシー側のメリットとしては、自社のブランディングや商品イメージに知的資産を付加することで広報コストと時間を節約し、商品力の向上や売上アップにつなげられる点です。
具体的な事例として、手塚プロダクションと共立物流システムがコラボレーションした「鉄腕アトム」のキャラクター活用事例や、お香メーカーの梅栄堂が「鉄腕アトム」や「ブラックジャック」の世界観をお香に展開した事例、広島のスペースエイジ社がヤクルトスワローズの「つば九郎」をグッズに活用した事例が紹介されました。また、ライセンサーとの交渉の入り口として、展示会やイベントの活用が有効であることが言及されました。
第2部:ショートプレゼン(講演)
1. 電子技販 北山氏「町工場からBtoCへ、ライセンスビジネスで企業価値を向上」
プリント基板の設計・製造を手掛ける町工場、電子技販の北山社長は、2014年からBtoC事業に進出し、ライセンスビジネスを始めた経緯を語りました。
BtoC事業への進出のきっかけは、新しい事務所の内装をこだわって作ったらテレビ取材が入り、「基板萌え」という言葉が採用されたことでした。これを機に、基板を使ったアクセサリーを製作・販売したところ好評を博し、代官山蔦屋書店のバイヤーの目に留まりました。
PCB-ART moeco東京回路線図
BtoC事業の第一弾として、回路図と東京の路線図が似ているという発想から生まれた商品です。名刺入れが鉄道マニアに好評でした。
LEDが光るギミック
iPhoneの電波を電力に変えてLEDを光らせる技術を開発し、特許を取得しました。これが注目を集め、iPhoneケースが経産省の「クールジャパンプロジェクト」に選出されるなど、メディア露出が増えました。
ライセンス契約
これまでのライセンス商品としては「スター・ウォーズ」、「エヴァンゲリオン」、「ガンダム」、「GODZILLA」、「イニシャルD」など、5社と契約しています。これらのライセンスビジネスは、取引先からの自社のイメージ向上や社内のモチベーションアップ、若手人材の獲得に大きく貢献しました。
2. 冨士精密 広報担当者「BtoB企業がキャラクター『ググ』でブランド価値を向上」
ゆるみ止めナットを製造・販売するBtoB企業、冨士精密の広報担当者が、自社キャラクター「ググ」の活用事例を話しました。
キャラクター活用の目的
創業30周年を記念し、硬い企業イメージを払拭するため、漫画家の黒鉄ヒロシ氏に依頼して「ググ」を制作しました。元々はカタログやノベルティに使用されていましたが、近年はSNS(特にX)に注力することで、今までアプローチできていなかった潜在顧客層や非認知層への認知拡大を図りました。
SNSでの成功
2024年10月に投稿した「ググ」のぬいぐるみの写真が「バズり」、380万インプレッションを記録しました。この結果、フォロワー数が1,700名から1万名以上に増加し、ホームページへのアクセス数が約5倍になるなど、大きな反響を得ました。
副次的効果
キャラクターの活用は、認知度拡大だけでなく、既存顧客との関係深化にもつながりました。また、採用面でも若い人材が「ググ」を見て応募してくるなど、副次的な効果も得られました。冨士精密はあくまで「ググ」を自社キャラクターとして位置づけ、グッズ展開による収益化は目的としていない点が特徴です。
第3部:パネルディスカッション【深掘りQ&A】
Q1:大手IP企業との交渉はどうやって?
電子技販では、展示会でのバイヤーとの出会いや、直接交渉(「突撃」)がきっかけでした。北山氏の経験談では、ライセンサーと粘り強く交渉を続けることと、自身の「基板愛」をアピールすることが契約につながったとエピソードを語りました。
Q2:ライセンス料は?
北山氏によると、スター・ウォーズはエージェントを通すのでライセンス料が13%と高額であるのに対し、エヴァンゲリオン、ガンダム、ゴジラ、イニシャルDなどは5%と比較的良心的であると語りました。
Q3:社内外の反応は?
電子技販: BtoC事業開始当初は、社内で懐疑的な意見もありましたが、メディア露出が増えるにつれて社員のモチベーションが向上し、今では営業ツールとしても活用されています。若手社員の採用にも繋がり、平均年齢も下がりました。
冨士精密: キャラクター導入から年月が経っているため、日頃から社員にも愛着があり、ぬいぐるみを発信したSNSでの成功後は、社員の家族や海外からも好評を得るなど、社内外での「ググ」の輪が広がりました。
Q4:IP活用のリスクは?
ライセンス契約には、年間最低販売数などの「ミニマムギャランティ(最低保証金)」が設定される場合があり、売上が見込めない場合はリスクとなります。また、自社で販路を持たない場合は、証紙が余るリスクもあります。
Q5:技術開発とキャラクターの掛け合わせは?
電子技販は、特許を取得した技術とライセンスを掛け合わせることで、他にはない独自の商品を生み出しています。これにより、本業であるBtoB事業でも、新しい技術開発や顧客からの引き合いが増えるという相乗効果が生まれました。
Q6:社内でのSNS活用への抵抗をどう乗り越えたか?
冨士精密の場合、社長がSNSに理解があったことに加え、広報担当者が他社事例を提示し、具体的な数字(インプレッション数、フォロワー数など)で効果を可視化することで、社内の理解を得たとのことです。
まとめ:キャラクター・ライセンス活用の本質
フォーラムの最後に室谷氏は、両社の事例に共通する重要な点として、「既存ビジネスの基盤を活かし、さらに展開させていく熱意」を挙げました。
電子技販: 自社のコア技術にライセンスを付加することで、会社のイメージを変え、新たな市場を開拓しました。
冨士精密: 企業のブランドイメージ向上という明確な目的のためにキャラクターを活用し、売上貢献に留まらない効果を生み出しました。
キャラクタービジネスは、単なる収益手段ではなく、企業活動の展開において、人材獲得やブランド力向上といった様々な相乗効果をもたらすことが示唆されました。両社の事例は、大阪に多いBtoB企業にとって、ライセンスやキャラクターを活用することで企業経営を大きく発展させる可能性を示しています。
受講者の声
フォーラムで学んだことや新たに気づいたことについて、受講者からは、以下のような感想が寄せられました:(下記アンケート結果より)
- 知らないことばかりでした。IPの活用、自社のIP作りをやってみようと思いました。
- IPへのアクセスの具体的事例が非常に参考になった。BtoCをBtoBへ還元させるのがに10年の年月が必要なんだと肝がすわった。
- ライセンスビジネスへのハードルが下がった。ポジティブなチャレンジが出来るように感じた。