ビジネスをデザインでひらく 公益財団法人大阪産業局・デザイン活用支援 oidc(Osaka Innovative Design Connect)
顧客目線で刷新した、パンフレット・チラシ・展示会ブース
ペルソナが明確になったら、こんなに変わる!?
合同会社MIRINE・松岡さんの挑戦!
大切なのは、「誰に、何を伝え、どんな行動を起こしてほしいのか」を明確にすることです。
商品を説明するパンフレットも展示会のブースも、まずは対象となる顧客像を具体化することでビジネスの方向性が見えてきます。
今回は、X線非破壊検査装置「ベガレイ・プロ」の販売に挑戦する合同会社MIRINEの松岡さん、金社長、そのビジネスを支援した吹田商工会議所の橋爪さんにお話を伺いました。
聞き手は、マーケティング領域を支援した大阪産業局・デザイン活用支援の小山です。
MIRINEとVEGARAY
小山: 橋爪さんから「相談に乗ってほしい企業がある」とご連絡をいただき、松岡さんと3人でお会いしたのが、今年(2026年)の初めでした。
橋爪: そうでしたね。堺筋本町の「産創館」でお話をうかがいました。私は小山さんにと面識がありましたが、初対面だった松岡さんは緊張されていましたね。
小山: 懐かしいですね。では、まず松岡さんから、合同会社MIRINEについてご紹介いただけますか。 松岡: はい。合同会社MIRINEは、韓国と日本の企業をつなぐコンサルティング会社として、2011年に金社長が設立しました。両国の企業が強みを生かしてビジネスを展開できるよう支援しています。

合同会社MIRINE・松岡氏
小山: 今回は、X線非破壊検査装置「VEGARAYシリーズ」の販売についてご相談いただきました。
これまで企業間の強みを生かすコンサルティングを行っていたMIRINEが、製品販売に乗り出したのはなぜでしょうか。
金社長: もともと、韓国でX線検査器を開発している会社とのお付き合いがありました。
その会社が、今までにないコンパクトな産業用X線検査装置をつくろうと考えたのが始まりです。
X線は扱いに注意が必要なため、漏れを防ぐために装置は大きく重くなりがちでした。
しかし、VEGARAYシリーズは、テーブルの上に置いて使えるほどのコンパクトさと軽量さ実現しています。
小山: こうして見ると本当に小型で驚きます。
金社長: 設計は2016年から始まり、韓国企業側での原案はできていました。
ただ、量産段階で、課題がありました。当時の設計では、製品ごとに安定した品質を確保するために、製造に時間と工数がかかりすぎていたのです・・・。
そんな時にこれまでのコンサルティング事業を通して、X線機器に関する事業や企業との関わりがあった弊社に協力依頼が来たのです。設計の見直しには技術者の協力が必要でした。そこで出会ったのが、元三洋電機の優秀な技術者さんでした。彼の会社に協力してもらい、完成したのがVEGARAYです。

合同会社MIRINE・金社長
小山: そこからは満を持しての販売ですね?
松岡: いえいえ、製造と販売は2019年後半から、韓国と日本で同時に始める計画でした。
しかし、韓国で製造と販売は進んだのですが、日本での製造と販売は、コロナ禍の影響で、展示会含め営業が困難になり、ストップせざるを得なくなってしまったのです。
小山: 松岡さんはいつからMIRINEに関わっているのですか?
松岡: 2年前、2024年からです。
金社長から「VEGARAYシリーズの販売に挑戦したいので、手伝ってほしい」と声をかけていただきました。 新規事業を一から一人で立ち上げるのは初めての挑戦でしたが、私を信頼し、評価していただいたことがうれしく、大きなやりがいを感じました。
小山: なるほど、新たな挑戦が始まったんですね。 そこから、どのような経緯で私のところに相談に来られたのですか?
松岡: 吹田商工会議所の橋爪さんにご紹介いただきました。
もともとは、橋爪さんに補助金申請について相談に乗っていただいていました。
小山: お!うまく補助金は通ったんですか?
橋爪: ばっちり、通りました! 松岡さんの問題解決能力は、ずば抜けていました。
例えば、宿題をお願いして「ここは、もっと思いを強く伝えてください」とコメントすると、内容をしっかり受け止めたうえで、スピーディーに返してくれる。 ただ、事業のターゲットが少し曖昧に見えていました。
VEGARAYシリーズが、誰に響く商品なのか?いわゆるペルソナが見えていなかったんです。
松岡: 当時は「顧客は製造業全体」と考えていました。
ただ、製造業の中でも、どの業界の、どの役職の、どういう業務の方に向けて販売するのかという方向性は定まっていませんでした。韓国市場での実績や資料、展開方法を、そのまま日本市場に当てはめようとしていたのだと思います。
橋爪さんにペルソナと言われても、どう考えていいのかさっぱり分からなかったです。
橋爪: そこで、吹田商工会議所でセミナーをしていただいた小山先生に、ターゲットやペルソナ、宣伝・広告としてのデザインついて相談してみてはどうか、と提案しました。
「見たら分かるだろう」 は、伝わらない
小山: お会いした時点で、すでにパンフレットをつくられていましたね。
松岡: はい。これですね。 販売するには、製品を説明する資料が必要だと考えてつくったものです。
ただ、小山先生に指導していただいた後、あらためて見直してみると、完全に自分たち目線でした。
「これは分かりにくいな」と...(笑)。
■BEFORE・以前のパンフレット(AFTERは下にあります)

小山: 「見れば分かるでしょう」という独りよがりは、多くの企業で起こります(笑)。
ご本人は誰よりも製品を知っていて、詳しい。これが仇になるんですね。
また、ペルソナが形骸化した穴埋め問題のように扱われ、年齢や性別、家族構成、趣味、年収といった骨格をシートに書き込む。しかし、それが完成した途端、机の引き出しにしまわれて、数年後に誰かが見つけて、「そういえば、こんなのつくったね」と言う。 そんなことが珍しくありません。
というか、ほぼそうなります(笑)
橋爪: 確かに、ペルソナをつくること自体が目的になってしまうケースはありますね。
小山: そうなんです。
さらに、「ペルソナに売るには...」という考え方が世に蔓延しているため、おかしな方向へ進みます。
「ペルソナは20代女性だから、女性が好きそうなピンクにしよう」
「カフェ巡りが趣味だから、おしゃれな雰囲気にしよう」
このように、ペルソナの好みを商品やデザインに反映させようとする。
もちろん、フィニッシュとしての色や雰囲気はとても重要です。しかし、顧客が商品を購入する根幹、理由ではありません。
ペルソナが必要な理由は「顧客のインサイト」を探り出すためツールだからです。
松岡: 以前の私も、広くアピールしなければ分かってもらえないと考えていました。けれども、ペルソナについて学ぶ中で、インサイトを探ることが大事だと分かってきました。
小山: そこがビジネスを考える上で最も重要です。
そのペルソナはどのような立場で何に悩み、不安を抱き、諦め、期待や憧れを持ち「判断の基準」を構成しているのか?内面を掘ることができなければ、ペルソナは用紙に書かれたプロフィールで終わってしまいます。

吹田商工会議所・橋爪さん
ペルソナは「顧客の好み」ではない
小山: 松岡さんは、ペルソナの考え方を聞いて、どう感じましたか。
松岡: 本当に、目から鱗でした。
当時の私は、「VEGARAYシリーズは様々な場面で活用できる汎用性の高い装置だから、できるだけ広くアピールしなければ製品の良さが伝わらない 」と考えていました。
しかし、小山先生から「まず、一人のペルソナに深く注目することが大切」と教えていただきました。
一人の顧客について、立場や課題、考えていることを深く掘り下げる。そうすると、その人だけでなく、同じ課題を抱えている多くの人にも伝わるようになる。
その考え方は、教えていただかなければ、自分だけではたどり着けなかったと思います。
橋爪: 設定したペルソナから導いた責任感や焦燥感って、顧客層の中での「ある、ある」になっているんです。 その「ある、ある」を引き出すためのツールがペルソナってことですね。
小山: それです! 共感によって万人を笑わせる「あるある」。そのネタを探すには、人をじっくり見て、観察しないとできないですよね?
パンフレットをつくるときも、営業トークを考えるときも、「この人なら、どこで疑問を持つか」「この説明で社内に持ち帰れるか」「何にひっかかるか?」と想像し、問いかける。そうすると、ペルソナが答えてくれるようになります。
「こう説明してくれたら欲しいと感じるなぁ」という答えが返ってきたります。その答えはペルソナ以外、世代や性別を超えて通用するものになっているはずです。
「聞くこと」の大切さ
橋爪: 私は、その考え方を素直に受け入れて実践していく松岡さんを、そばで見ていました。
何度か小山先生のところへ同行しましたが、回を重ねるたびに松岡さんが変わっていくんです。それを見るのが楽しみでした。
「人は、こうやって成長していくんだな」と感心しましたし、本当に楽しかったです。
小山: 橋爪さんは、吹田商工会議所にこられて相談される企業さんにペルソナを説明されることはありますか?
橋爪: はい。小山先生から教わったことを、真似しながらご説明しています(笑)。
真似になっているかどうかですが…。 「誰が対象なのか」「顧客は何を見ているのか」という視点で深く考えている方は多くはありません。なので、必要に応じて、相談者の方と一緒にペルソナを考えることもあります。
小山: 吹田商工会議所らしい、丁寧で素晴らしい対応ですね!
私が指導の軸に置いているのは、「迷ったら、顧客に聞け」ということです。
専門家が最初から答えを持っているわけではありません。ノウハウをお伝えすることはできますが、顧客の本当の課題や欲求は、顧客に聞かなければ分かりません。
「顧客に聞く」に関しては、定性や定量調査をご指導することも多くあります。
松岡: そこから、「聞くこと」をより意識するようになり、営業の感覚が大きく変わりました。
最初に小山先生から出された宿題で、2パターンのペルソナをつくりました。しかし、よく考えると、その2人は私がよく知っている顧客がモデルになっていました。
つまり、それまで私は、展示会や商談の場で自分が伝えたいことの説明に集中しすぎていて、相手がどのような立場の人なのか、何を課題にし、何に悩み、何を求めているのか。なぜX線検査器に興味を持ったのか。十分に聞けていなかったことに気づいたのです。
実際に、相手の話をきちんと聞けていたのは、2パターンのたった2人だったんです。
小山: そこから、ペルソナも変わっていきましたね。
松岡: はい。最初は若手の研究者を想定していましたが、最終的には「現場を理解し、改善提案まで行える中堅クラスの技術者」が、VEGARAYシリーズのペルソナになりました。
ただこのペルソナも今後ヒアリングを重ねていくことで、より精度の高いものにしていく予定です。
伝えるための武器「タグライン」
小山: 以前のパンフレットから、現在のものへ大きく刷新されましたね。
松岡: はい。小山先生から教えていただいた、タグラインやキャッチコピーの重要性について、かなり考えました。
それまでは、X線検査装置について「分かってくれるだろう」と思い込んでいたのだと思います。
小山: 「X線検査装置」という名称はあくまで機能や手段の説明ですよね?
顧客が知りたいのは、「その装置を使って、何ができるか」の効果・効能です。
この顧客の思いを分かりやすい言葉にした結果「壊さず、見抜く」 というタグラインにたどり着いたんですね?
■AFTER(新しいパンフレット)

松岡: はい。20案ほど考えた中から、試行錯誤して決めました。
現在は「壊さず、見抜く」をタグラインとして決めて、バナーやタペストリーにも統一して展開しています。
以前は、展示会で「これは何ができる装置ですか」と聞かれることが多かったのですが、今は「本当に見えるんですか」「こんなのも見られますか?」と聞かれるようになりました。

橋爪: 以前の展示ブースを見ると、「何ができるのですか」と聞きたくなるのも分かります。現在のブースとは、印象がまったく違いますね。
小山: 見抜くには「検査する」というイメージがきっちり伝わりますし、本当にわかりやすいです。ブランドカラーのオレンジと黒が際立って、来場者もこの印象を記憶して持ち帰ってくれますね。
金社長、橋爪さんから見て、松岡さんにはどのような変化がありましたか。
金社長: 松岡さんを通じて私も学んでいます。初めは小型化されたことさえ伝われば良いと思っていましたが、そうじゃないという意識に変わりました。つまり、変わったのは松岡だけじゃなく私も…ですね(笑)
橋爪: 私は、何度も同じことを言いますが、松岡さんが一つひとつ課題をクリアしていく様子が印象的でした。 展示会を通して、お客さまの反応を確かめながら「伝え方」が変わっていく。そのプロセスを間近で見られたことが、本当に楽しかったです。
松岡: 本当ですか(笑)。
橋爪: 「人はこうやって学んでいくんだな」と思いました(笑)。
松岡: 私も、改めて設定したペルソナを軸に進化していってます。
ブースに来られた方が「これで内部が見られるらしいよ」と他部門に情報を伝えるケースが多くあります。
ペルソナは中堅クラスの技術者で、会社を担っていて、内外に影響力を与えたいと考える方です。 この方が経営陣や他部門に対して「具体的なエビデンスを見せてみたい」と思っていただくようにお話し「こんなモノでも見れるの?」を引き出すうようにしています。
そこから「持ち込み」「郵送」「出張」での実際のサンプルのテスト撮影をご利用いただく流れです。
小山: 「社内への影響力を高めたい」または「社内で説得力のある提案をしたい」これは、本人も自覚していない、けれど確実に自己実現のカギになってくるインサイトです。
一人の顧客を深く掘り下げることで、同じ立場や課題を持つ多くの顧客の姿が見えてくる。
これが、ペルソナの力です。
松岡: はい、私の挑戦はこれからも続きますが、顧客志向を深堀しながら進めていきたいと思います。
VEGARAYシリーズは工業製品などの内部構造や不具合を鮮明に「壊さず、見抜く」ことができます。
そして、驚くほどコンパクトで手軽です。普段作業をしているそばに置いて、気になった時にすぐ使え、装置までの移動や検査の待ち時間を減らすことができます。
結線状況や部品レイアウトなどを瞬時に画面に写し出す、弊社のVEGARAYシリーズご興味のある方は是非、お声がけください。
編集後記
吹田商工会議所、橋爪さんと協力して進めてきた合同会社MIRINEへのサポート。「BEFORE & AFTER」での変化も著しく、明快な見込み顧客へのアピール、伝えるべきことが分かりやすく、インパクトのあるものへと変化している。事業責任者、松岡さんの意識改革が大きく功を奏し、具体的な形になったことは“素晴らしい”の一言である。
が、新たなパンフレットの“デザイン表現”については課題が残る。特に表紙については、VEGARAYシリーズがコンパクトに見えない、X線画像が、機器の内部を見ている画像だと分からない、顧客には右上の“マウス”の意味が分かりにくいなど。
顧客に真摯に向き合い、考え出されたタグラインや文章の構成、コピーなどがあまりに上手くいっているだけに「惜しい」と思わせた。このデザインに関する課題が今後修正されていくことに期待し、私からもサポートできればと思う。
合同会社MIRINEに課せられた「顧客」という本質的なテーマへの挑戦は、着々と進んでいく。
製品や企業のブランディングを核に「売れる販促ツールを」と考えの方は、一度「大阪産業局デザイン活用支援、小山」までご相談ください。相談は無料で対応しております。